神戸の改修
– 制作と生活が並列する家 –
工事:改修 / 木造
用途:住宅 / 夫婦+子供1人
場所:兵庫県神戸市
階数:2階
写真:笹の倉舎 / 笹倉 洋平
性能向上リノベデザインアワード2023 特別賞
剥がすように改修する
神戸市にある、祖父母が暮らしていた空き家を孫世帯が引き継ぐための改修計画である。建主は子供の誕生で広い面積と、本業とは別に行っている音楽制作活動のためにスタジオや録音室を欲していた。また、現在は別の場所で篭って制作している時間(制作)を改め、家族と過ごす時間(生活)との両立ができる暮らし方を模索していた。
改修する空き家は2階建で、DK+6部屋と建主が求める面積は確保できる。但し、DK→Lが分離•個室が画一的な大きさ・収納が各室に分散等、かっちり間仕切られた従来のnLDK型プランでは、建主が望むような制作の場を設けたり、子育てに配慮した見通しがよく開放的な暮らしをするには、面積の割に窮屈な空間であった。
一方で空間要素に着目すると、家族の成長が刻まれた柱、変色した柱や梁、長押や欄間、味のある照明や鏡など、祖父母や親戚が集っていた頃の雰囲気が感じられる要素が残っており、建主も極力活用したいと考えていた。つまり、全てを解体して刷新するでもなく、既存の上に仕上げを重ねて更新するでもない、改修の在り方が問われた。
そこで、天井・壁の面材や、鴨居・長押の部材を「剥がす」ようにして、改修することを考えた。具体的には、天井や壁の面材は、室要求に合わせて剥がすことで、空間を繋いだり、CHに抑揚を与え、かっちりとした空間を抜けのある柔軟な空間にする。また、鴨居・長押の部材を剥がし、空間の境目をより曖昧にしつつ、柱を独立させることで、空間を広く見せる。さらに剥がすことで、天井裏に隠れていた梁や間仕切り壁が付いていた柱の面、部材が接合されていたほぞ穴等、既存の仕上げと新規の仕上げとも違う表情が顕になる。つまり剥がすことで空間を調整しつつ、新旧仕上げの緩衝材となる第三の仕上を生み出すことを狙った。
剥がし方の指針となる室要求は、夫婦の其々の過ごし方を分析し、望ましい制作と生活の関係を検討した。夫は日中は仕事で外出、制作活動は夜や休日が多いこと、妻は日中は家事と子育て、夜は映画鑑賞やその時々に合わせて子供とゆっくりすることから、1階は、LDKと収納、家事室をまとめ、家事動線と子育てを完結させ、2階は、制作活動ができるスタジオや録音室、家族や来客者が過ごせるホール・ライブラリー、寝室を設けて、主な制作時間である夜や休日に家族が過ごせる場として設えた。
そうすることで、家族で一緒の時間を過ごす1階、家族が存在を感じながら各々の時間を過ごす2階と、時間帯に合わせて家族の距離感が保てるようにし、制作と生活が交わるでも離れるでもなく、家の中で自然と並列して存在できるようにした。
このように剥がすように改修することで、時間と空間を住まい手にとって最適化させることを目指した。